女子日本代表の山本麻衣選手が、WNBAのラスベガス・エーシズと契約しました。
山本選手がWNBAの公式戦に出場すれば、萩原美樹子、大神雄子、渡嘉敷来夢、町田瑠唯に続く、日本人史上5人目のWNBAプレーヤーとなります。日本女子バスケットボールにとって、間違いなく大きなニュースです。
ただし、「エーシズと契約した」という見出しだけで、すぐに多くの出場時間を得られると考えるのは早いでしょう。
今回の契約には、エーシズの負傷者事情、スター選手が並ぶガード陣、山本選手のサイズと守備、日本代表への影響など、冷静に見なければならない点が数多くあります。
山本麻衣がWNBAラスベガス・エーシズと契約🤝@LVAces #WNBA #NBAJPN pic.twitter.com/r8DJnhQPNO— NBA Japan (@NBAJPN) July 18, 2026
今回の契約は「負傷者発生に伴う特例契約」
まず確認しておきたいのは、今回の契約の種類です。
WNBA公式の取引記録では、山本選手は2026年7月17日付で、Rest-of-Season Hardship Contractを結んだと記載されています。これは、負傷などによって選手が不足したチームに認められる特例契約です。
つまり、通常の複数年契約や、将来を見据えた長期契約とは意味が異なります。シーズン終了までチームに帯同できる可能性がある一方、チーム内で長期的な立場が保証されたわけではありません。
エーシズでは、2026年ドラフト全体29位で指名した身長193センチのフォワード、ジャナイア・バーカーが脚の負傷により今季残り試合を欠場することが発表されました。その直後に山本選手との特例契約が成立しています。
したがって、今回の獲得については、まず負傷者が出たことによって生まれたロスター上の枠が大きな背景にあると見るのが自然です。
山本麻衣はいくらもらえる?推定約1,900万円
多くのファンが気になるのは、今回の契約で山本選手がいくら受け取るのかという点でしょう。
エーシズと山本選手は契約金額を公表していません。ただし、2026年のWNBA労使協定(CBA)には、負傷者特例で加入する選手の給与計算方法が定められています。
山本選手はWNBAのレギュラーシーズン出場歴がないため、契約時点では在籍年数0年の区分です。2026年の同区分の最低年俸は27万ドル。Hardship Exceptionを利用したReplacement Contractでは、この最低年俸を残り日数に応じて日割りします。
2026年のレギュラーシーズンは5月8日から9月24日までですが、8月31日から9月16日までのワールドカップ中断期間は給与計算の日数から除外されます。対象となるシーズン日数は123日、7月17日の契約日から残る対象日数は53日です。
| 計算項目 | 金額・日数 |
|---|---|
| 2026年の最低年俸(WNBA在籍0年) | 27万ドル |
| 給与計算の対象となるシーズン日数 | 123日 |
| 契約日から残る対象日数 | 53日 |
| 推定契約額 | 約11万6,341ドル |
27万ドル × 53日 ÷ 123日=約11万6,341ドル。1ドル162円で換算すると、約1,885万円です。分かりやすく言えば、シーズン終了まで在籍した場合の基本給は、税引前でおよそ1,900万円になる計算です。
これは試合出場数に応じた出来高ではありません。試合に出られない日が続いても、契約下にいる期間について給与は発生します。一方、この種の契約に給与保証はなく、シーズン途中で契約を解除された場合は、在籍した日数分までとなります。
また、この数字は税金やエージェント手数料などを差し引く前の基本給です。チームが負担する住居、移動、食事手当なども基本給とは別に扱われるため、約1,900万円がそのまま手取りになるわけではありません。
山本麻衣はなぜエーシズの目に留まったのか
最も分かりやすい理由は、2026年4月26日に行われた女子日本代表対ラスベガス・エーシズのプレシーズンゲームでしょう。
山本選手はこの試合で、3ポイントシュート13本中7本を成功させ、両チーム最多の24得点を記録しました。日本代表は78-94で敗れましたが、山本選手の外からのシュートは、エーシズのスタッフとファンに強い印象を残しました。
女子バスケWNBAラスベガス・エースが、日本代表の山本麻衣選手を獲得した。日本代表は4月にプレシーズンマッチでエースと対戦し、山本選手は7本の3ポイントシュートを含む24得点を記録した。 pic.twitter.com/wWsNwRcChp— ラスベガス日報 (@lv_news_in_jp) July 19, 2026
シーズン途中に新しい選手を加える場合、チームのシステムへ適応できるか、WNBAのスピードとフィジカルに対応できるかを短期間で判断しなければなりません。
エーシズは山本選手を実際の試合で見ています。しかも、自分たちを相手に24得点を挙げた選手です。未知の選手を一から調査するよりも、すでに直接評価できている山本選手を選ぶ合理性はあります。
山本選手に期待される第一の役割は、ポイントガードとして試合を全面的に組み立てることではなく、短い出場時間で3ポイントシュートを決め、オフェンスのスペースを広げることでしょう。
エーシズはどれほど強いチームなのか
ラスベガス・エーシズは、2022年、2023年、2025年に優勝したディフェンディングチャンピオンです。ベッキー・ハモンHCの下、直近4シーズンで3度優勝しています。
山本選手との契約が発表された時点で今季17勝7敗。ウェスタン・カンファレンス3位、リーグ全体でも上位につける優勝候補です。
中心には、WNBA史上初となる4度のレギュラーシーズンMVPを受賞したエイジャ・ウィルソンがいます。さらに、ジャッキー・ヤング、チェルシー・グレイ、ジュエル・ロイドなど、実績のあるガードが揃っています。
| 選手 | 身長 | 2026年の主な数字 | 主な役割・実績 |
|---|---|---|---|
| エイジャ・ウィルソン | 193cm | 25.5得点、9.8リバウンド | WNBA史上最多4度のMVP、2025年ファイナルMVP |
| ジャッキー・ヤング | 183cm | 16.1得点、6.6アシスト | 5年連続オールスター、攻守に優れた大型ガード |
| チェルシー・グレイ | 180cm | 12.3得点、7.4アシスト | 4度の優勝、2022年ファイナルMVP |
| ジュエル・ロイド | 180cm | 8.2得点 | 豊富な得点力と経験を持つベテラン |
| ダナ・エバンス | 168cm | 8.0得点 | スピードのあるバックアップガード |
| 山本麻衣 | 163cm ※WNBA登録は5フィート5インチ | 契約時点で公式戦未出場 | 3ポイントとスピードが武器 |
このロスターを見るだけでも、山本選手がすぐにガードのローテーションへ入ることが簡単ではないと分かります。
平均12.2得点のチェネディ・カーターをなぜ放出したのか
エーシズは7月7日、チェネディ・カーターをウェイブしました。
カーターは今季13試合で平均12.2得点、1.8リバウンドを記録し、ベンチから高い得点力を見せていました。それでもエーシズはカーターを放出し、同日に身長193センチのガード/フォワード、ジャスティン・ピソットと契約しています。
チームはカーターを放出した具体的な理由を公表していません。過去の問題やチーム内事情と結びつけて断定することはできません。
また、カーターの放出は7月7日、山本選手との契約は7月17日です。その間にピソットとの契約、タニヤ・ラトソンとの育成契約、バーカーの今季終了となる負傷発表がありました。
この時系列から見ると、「カーターを切って、その代わりに山本選手を獲得した」と単純に説明するのは正確ではありません。エーシズはシーズン途中にロスター全体を再編し、その後に生じた負傷者特例で山本選手を加えた形です。
獲得はマーケティング目的なのか
ポッサムチャンネルとしては、バスケットボール上の理由だけでなく、日本市場へのマーケティング効果も無関係ではないと考えています。
WNBAは現在、観客動員やメディア露出を伸ばしており、海外市場への展開も重要になっています。日本代表の中心選手を獲得すれば、日本のニュース、SNS、ファンからエーシズへ注目が集まります。
4月の日本代表戦には1万341人が来場しました。エーシズは日本代表との試合を通じて、すでに日本の女子バスケットボールとの接点を作っていました。山本選手の加入によって、その接点を継続できることはチームにとって明確な利点です。
一方で、マーケティングだけが獲得理由だと断定する根拠もありません。エーシズは3年連続でシーズンチケットを完売する人気チームであり、単純にチケットを売るためだけに山本選手が必要な状況ではありません。
負傷者特例で枠が生まれたこと、エーシズ自身を相手に3ポイント7本を決めたこと、短時間のシューターとして役割を与えやすいこと。そのうえで、日本市場への波及効果も期待できる。この複数の条件が重なった契約と見るのが妥当でしょう。
出場時間はどの程度期待できるのか
率直に言えば、契約直後から継続的に10分以上出場する可能性は高くないと見ています。
グレイとヤングはチームの中心です。ロイド、エバンス、ラトソン、ピソットもいます。優勝を争うチームが、シーズン途中で加入したWNBA公式戦未経験の小柄なガードへ、すぐに多くの時間を与える理由はありません。
最初は出場なし、または試合の勝敗が決まった時間帯を中心に0~5分程度となる可能性があります。連戦、負傷、ファウルトラブル、シュートが必要な場面によって、少しずつ機会が増える形が現実的でしょう。
ただし、短い時間でも3ポイントを決め、ターンオーバーを抑え、守備で大きく崩されなければ状況は変わります。チャンスが小さいことと、チャンスがないことは同じではありません。
最大の問題は163センチのサイズとディフェンス
山本選手の最大の壁は、WNBAでは非常に小柄であることです。
日本代表の登録身長は163センチ。WNBAのエーシズ公式ロスターでは5フィート5インチ、約165センチと記載されていますが、いずれにしてもリーグでは最小クラスです。
WNBAでは、180センチ前後のガードがボールを運び、強いフィジカルでペイントへ侵入します。相手はスクリーンを使って山本選手とのミスマッチを作り、ポストアップやドライブで狙ってくるでしょう。
外からのシュートが入っても、守備で同じかそれ以上に失点へ関与すれば、プレータイムは伸びません。山本選手が出場時間を得るためには、シュート成功率以上に、ピック&ロール守備、スイッチ後の対応、ファウルをせず前に立ち続けられるかが重要になります。
試合よりも毎日の練習が心配
試合だけでなく、毎日の練習も非常に厳しい環境です。
特にチェルシー・グレイは180センチ、170ポンド(約77キロ)の大型ポイントガードです。山本選手とは身長で約17センチ、体重で約20キロの差があります。
グレイは身体を使って相手を押さえ、ペースを変えながらパスと得点を作れる、WNBAを代表する司令塔です。練習でマッチアップすれば、ポストアップ、スクリーン、接触を伴うドライブで大きな負荷を受けることになります。
山本選手は3人制日本代表の経験があり、小柄な選手としては接触に強い部類です。それでもWNBAのサイズとパワーは別の水準です。まず大きなけがなくシーズンを終えること自体が、重要な成功条件になります。
山本麻衣はポイントガードとして通用するのか
山本選手のスピードと3ポイントは魅力ですが、WNBAでグレイのように試合全体を組み立てる司令塔として評価されているわけではありません。
サイズのあるディフェンダーから強くプレッシャーを受けると、視野とパスコースは狭くなります。2025年にダラス・ウィングスのプレシーズンゲームへ出場した際も、約6分で3得点を挙げた一方、3ターンオーバーを記録しました。
エーシズで生き残る道は、無理にグレイの代役になろうとすることではありません。ボールを長く持たず、素早く正しい判断をし、オープン3ポイントを決める。必要な場面ではスピードを使って流れを変える。まずは、この限定された役割を確実に遂行することが求められます。
女子日本代表にとっては大きな痛手
山本選手個人にとっては、WNBAでプレーする貴重なチャンスです。しかし、9月のFIBA女子ワールドカップを目指す日本代表にとっては、かなり大きな痛手です。
JBAの発表によれば、山本選手は今後の強化合宿に参加せず、8月13日、14日に有明アリーナで行われる韓国代表との「三井不動産カップ2026」にも出場しません。
WNBAは8月31日から9月16日まで女子ワールドカップのため中断期間を設けています。そのため、今回の契約だけを理由に山本選手のワールドカップ本大会出場が不可能になったわけではありません。
問題は、本大会へ向けた準備期間を日本代表と一緒に過ごせないことです。
日本最大の強みは長期間のチーム練習
日本が世界の強豪国に対して持っている数少ないアドバンテージの一つは、Wリーグのオフシーズンを使い、代表選手が長期間集まって練習できることです。
アメリカ、オーストラリア、カナダ、ヨーロッパの主要選手の多くは、この時期もWNBAでプレーしています。各国代表はワールドカップ直前まで主力全員を揃えにくい一方、日本は早い時期から合宿を重ね、チームの連係を作れます。
日本のようにサイズで劣るチームは、個人能力だけでは世界の高さとパワーに対抗できません。守備のローテーション、ヘルプのタイミング、スクリーンの角度、パスのテンポ、速攻へ移る判断など、5人の連係が特に重要です。
その中心となるガードの山本選手が韓国戦まで不在になる影響は、小さくありません。本大会で合流できたとしても、チームとして準備した動きへ短期間で合わせなければならなくなります。
町田のコンディション、平下の重傷、ベテラン依存
現在の女子日本代表には、ほかにも不安材料があります。
町田瑠唯はコンディション不良により第2次強化合宿へ参加できず、第3次合宿から復帰しました。また、平下愛佳は所属チームの練習中に左膝前十字靱帯を損傷し、代表合宿から離脱しています。
インサイドでは、髙田真希が36歳、渡嘉敷来夢が35歳、宮澤夕貴が33歳です。経験は大きな武器ですが、ワールドカップの連戦を考えれば、ベテランへの依存とコンディション管理は無視できません。
さらに、6月30日から7月7日に行われたオーストラリア遠征は、対戦相手、スコア、試合内容が公表されていません。結果が公表されていないことだけで「調子が悪かった」と断定はできませんが、外部から代表の現在地を評価できない状態が続いていることは問題です。
この点については、関連記事「怪しい女子バスケ日本代表の動き|豪州遠征の報告なし、スタッフ22人の違和感」でも詳しく取り上げています。
チャンスは本物。しかし現実は極めて厳しい
山本麻衣選手がWNBA王者ラスベガス・エーシズと契約したことは、素晴らしいニュースです。公式戦に出場すれば、日本人史上5人目という歴史も生まれます。
🇯🇵海を渡った名手たち📊
歴代日本人WNBA選手のプロフィール&成績まとめ…ドラフト指名は田中こころが史上2人目https://t.co/gzDM3HQ3fs
🔻日本人WNBAプレーヤー
1️⃣萩原美樹子️
2️⃣大神雄子
3️⃣渡嘉敷来夢
4️⃣町田瑠唯️
✅山本麻衣がラスベガス・エーシズと契約。史上5人目の快挙へ💥 pic.twitter.com/tsKA4lnL5h— バスケットボールキング (@bbking_jp) July 18, 2026
一方で、契約区分は負傷者特例です。スター選手が揃う優勝候補で、出場時間は限られる可能性が高く、サイズとディフェンスには明確な不安があります。日本代表も、重要な準備期間を中心ガード抜きで過ごすことになります。
それでも、チャンスはチャンスです。
短い出場時間で1本の3ポイントを決める。守備で粘る。ターンオーバーをしない。その積み重ねによって、評価と役割は変えられます。
厳しい現実を理解したうえで、山本選手が与えられた機会をつかみ、何より大きなけがなく日本代表へ戻ってくることを期待したいと思います。
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